感染症をめぐる攻防とバイオテロ(山本和幸)

 現在、新型コロナウイルスが世界で猛威を振るっている。SARS、MERSといったコロナウイルスだけではない。結核、コレラ、ハンセン病、エボラ出血熱など、人類にとって感染症との戦いは無限だ。

 人類が根絶を成し遂げたヒトがかかる感染症は天然痘、唯一つだけだ。

 我が国では、醍醐天皇、後朱雀天皇、崇徳天皇、近衛天皇、後光明天皇など古来から皇室・国民問わず、この病には苦しめられた。とかく陰謀論めいて「暗殺説」が流布される孝明天皇も崩御の原因は天然痘とされている。

 天然痘患者が持つ膿から感染るもので、その跡は一生残るという。もっとも、私のような若い世代は書を以てしか知ることができないほど遠くなったもの(1980年にWHOが根絶宣言)。こうなったのも、ワクチンが発明されたからだ。いま私達が渇望しているものだ。

 我が国では、緒方洪庵をはじめとする各地の有能な藩医たちが自らワクチンの原型ともいうべき種痘を開発していた。天然痘患者のかさぶたを鼻から吸うのだ。

 これに続く1769年、イギリス農村部の医師、エドワード・ジェンナーが「天然痘に近い牛がかかる病気、牛痘に感染した者は天然痘にかからない」という農民の言い伝えを手がかりに、ワクチンは発明された。

 先人が行ってきた種痘の甲斐もあり、昭和31年以降、我が国では天然痘の発生はなくなり、前述の通り世界から天然痘に悩まされる人は消えた。

 だがしかし、根絶に主導的立場を発揮したソ連が生物兵器として天然痘ウイルス製造を行い、ソ連解体後、アルカイダに流出したとの研究さえある。

 このような世界の連帯と逆行する事態は、現在もある。今回の新型コロナウイルスについて中国共産党が政治宣伝に躍起なことだ。
アメリカのトランプ政権は、最初の発生地となった湖北省武漢市にある武漢ウイルス研究所から流出したものとの見方を強くしている。アメリカのこういった批判に対し、研究所の研究員が海外向けの国際放送に出演まで行い、「われわれには厳格な管理制度がある」「退職者であれ学生であれ、職員は一人も感染していない」と主張している。

 また、中国外交部の趙立堅副報道局長は、ツイッターを通じて「武漢市に持ち込んだのは米軍かもしれない」と米国による謀略説を発信した。

 我が国でのテロは、オウム真理教による一連のサリン事件が代表例だ。

 警視庁公安部の公安機動捜査隊は、天然痘ウイルスの感染についてスピーディーに判定することができる検査キットを開発するほどのハイテク集団だ。「9.11」以降、バイオテロに対する備えを講じている。

 現代日本で「生物兵器」「バイオテロ」と宣えば、素っ頓狂なことを垂れていると思われがちだ。しかし、世界では、生物・化学兵器の存在が前提となった議論展開だ。

 私達もこの視点を踏まえなければならない。

(事務局次長 山本和幸)