【書籍紹介】『悪党・ヤクザ・ナショナリスト』エイコ・マルコ・シナワ 著、朝日新聞出版 刊
本年6月に刊行された、アメリカの学者による著作。幕末維新期から安保闘争期に至るまでの日本政治における「暴力」を、志士、博徒、壮士、大陸浪人、院外団、行動右翼団体や任侠団体といった「暴力」の担い手から通観したもの。近代日本政治における「暴力」の公然性、「暴力」の効果や影響、他国との共通点や相違点などが論じられている。右翼運動史に詳しい方にとって、戦後部分はおおむね既知の内容といってよく、少々疑問符の付く記述もある。概して左翼系の暴力についての記述が乏しいのは少々物足りない気もするが、独特なテーマの通史物として一読の価値あり。
本書を読むと、昔は「暴力」が政治に身近な存在であったことがよくわかり、今とは隔世の感がある。「暴力」に対する不寛容の広がりは戦後民主主義の際立った特徴だと本書は述べるが、その風潮は現在に至るまで継続しているといえるだろう。国会を例にとれば、昔は院外団を交えて文字通りの殴打・乱闘が起こっていたが、今となっては野次が下品だといわれるレベルで、むしろ動画・画像化された時の効果を狙ったプラカードなどが目立ってきている。そう考えると、最近の街頭運動における「カウンター」と称する人々は、政治的ベクトルは異なるものの、こうした伝統の復活?と評すべき存在なのかも知れないが……。
ともあれ、近代日本政治における「暴力」は、日本人の形容しがたい潜在的エネルギーの存在を示すものともいえるだろう。このエネルギーは、危機の時代においては確実に噴出するものといってよい。発展しつつある大衆運動としての愛国運動において、こうしたエネルギーをどのように束ねていくのか。これは、運動を担う人々の大いなる課題となっていくのだろう。
(評者 渡貫賢介)